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2019年2月号(1)
ライフプラン
CFP®認定者 蓑田 透

老後の年金 ~繰り上げ支給、繰り下げ支給とは?またそのメリット、デメリットについて~

 平均寿命が延び人生100年時代と言われ始めた今、公的年金(厚生年金、国民年金)は老後生活の基盤でありこれまで以上に重要な意味を持ちます。そうした中で年金を受給する際の繰り上げ・繰り下げ支給にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?

1.制度の概要

 まず繰り上げ・繰り下げ支給についてご存知ない人のために簡単に制度を紹介すると、現行の年金制度では老齢年金の支給開始年齢は原則65才となっています。(厚生年金に1年以上加入していた昭和36年4月1日(女性は昭和41年4月1日)以前生まれの人の中には60歳~64歳支給開始年齢の人もいます)
 年金の繰り上げ・繰り下げ支給というのは、この本来の支給開始年齢を早めたり遅らせて年金請求する制度です。ただし繰り上げ請求では早く受給する分、本来の年金受給額が減額されます。逆に繰り下げ請求では受給額が増額されます。

  請求可能期間 請求単位 受給額増減(月当り)
繰り上げ支給 60~64歳 1か月 ▲0.5%
繰り下げ支給 66~70歳 1か月 0.7%

(表:繰り上げ・繰り下げ請求について)

 たとえば65歳から厚生年金、基礎年金を受給できる人が62歳時に繰り上げ請求すると3年の繰り上げとなり年金額が18%(=0.5%×36か月)減額されます。
 また65歳から厚生年金、基礎年金を受給できる人が65歳で請求せず69歳時に繰り下げ請求すると4年の繰り下げとなり年金額が33.6%(=0.7%×48か月)増額されます。

2.メリット・デメリットを考える

 では繰り上げ・繰り下げ支給を行なう場合のメリット・デメリットを見てみましょう。

(1)生涯受給総額から見たメリット・デメリット
 年金は終身で受給できますから、受給総額を比較しその損益分岐点を見てみます。

●比較1 本来の65歳から受給するケース vs 60歳に繰り上げ請求するケース
5年(60か月)の繰り上げ請求を行なうので年金受給額が30%(=0.5%×60か月)減額となります。この場合大体76歳を超えると繰り上げ請求した場合の受給累計額が本来の受給累計額を下回ります。つまり76歳を超えるまで生きるのであれば、繰り上げしない方がお得ということになります。

●比較2 本来の65歳から受給するケース vs 70歳に繰り下げ請求するケース
5年(60か月)の繰り下げ請求を行なうので年金受給額が42%(=0.7%×60か月)増額となります。この場合大体81歳を超えると繰り下げ請求した場合の受給累計額が本来の受給累計額を上回ります。つまり81歳を超えるまで生きるのであれば、繰り下げした方がお得ということになります。

(注)比較1、2とも毎年の年金受給額が変わらない前提で単純計算しているだけですが、実際の受給額は少しずつ改定(減額)されます。

 このように比較すると長生きするのであれば繰り上げ請求をせずに繰り下げ請求をした方がよさそうに見えますが、人の寿命がどれ位かは誰にもわかりません。重い病気にかかり余命宣告された人であれば繰り上げ請求する方が合理的な判断ということになりますが、そうでない人には難しい選択となります。

(2)個人の収支や資産状況から見たメリット・デメリット
 繰り上げ支給は生涯の年金額が減額されるというデメリットがあるものの、本来の支給開始年齢である65歳より早く受給することができます。60歳~65歳の間に所得や資産が少なく経済的に厳しい状況にあるのであれば、収入を確保できるメリットとなります。
 一方、繰り下げ支給は支給開始が遅れるというデメリットはありますが、生涯の年金額が増額されるので、80歳、90歳と長生きした場合でも増額された年金を受給し続けることができるメリットがあります。60歳以降も働いてそれなりの所得がある、または資産に余裕があるという人に向いています。

(3)制度面から見たデメリット ~他の年金への影響~
<繰り上げ支給時>
 繰り上げ支給はもともと65歳支給開始の年金を前倒しすることになるので、65歳までに請求することができる年金が請求できなくなります。
●事後重症による障害年金
 障害年金は障害の原因となった疾病・負傷の「初診日」の前日における保険料納付状況と、その1年6か月後の「障害認定日」の状態により受給の有無が決定します。「事後重症」とはこの障害認定日に障害年金に認定されなかったものの、その後障害の悪化により再請求することを言います。事後重症は65歳まで請求できますが、繰り上げ請求すると65歳前でもその時点以降できなくなります。
●寡婦年金
 国民年金に加入していた夫が死亡した場合に、18歳以降最初の3月31日までの間にある子がいると(ただし生計を同じくしていること)遺族基礎年金が遺族(妻、子)に支給されますが、該当する子のない妻には支給されません。寡婦年金とはこうした遺族基礎年金の受給権のない妻に支給される年金で60歳~65歳の期間受給できますが、繰り上げ請求した時点で受給できなくなります。

<繰り下げ支給時>
●加給年金
 厚生年金に20年以上加入していた人が受給する老齢年金では、年下の配偶者がいると65歳(または定額部分発生時)から加給年金が上乗せ支給されます。繰り下げ請求して66歳~70歳から受給する場合、老齢年金は増額されますが加給年金については増額の対象にはならず、結果として繰り下げた期間分の受給額を放棄することになります。

3.繰り上げ・繰り下げ支給に関するワンポイントアドバイス

●厚生年金は従来通り、基礎年金だけ繰り下げ請求する
 厚生年金受給者の場合、繰り上げ請求は厚生年金と基礎年金を一緒に行なう必要がありますが、繰り下げ請求は別々に(または片方だけ)できます。制度面から見たデメリットとして繰り下げ時に加給年金は増額の対象にならないと前述しましたが、厚生年金は従来通り65歳から受給し基礎年金だけ繰り下げれば加給年金が全額受給できて、基礎年金部分は将来、多めに受給することができます。

●夫は65歳から受給し、妻だけ繰り下げ請求して70歳から受給
 夫婦世帯において、夫は従来通り65歳から受給し、妻だけ繰り下げる方法もあります。男女の平均寿命を考えた場合、夫が先に死亡し残された妻がその後の人生をひとりで生きていくことが想定されるので、女性の年金を繰り下げることは有効な受給方法です。(死亡した夫が厚生年金受給者であれば、遺族厚生年金が受給できます)

 いかがでしょうか。利用のしかたによっては繰り上げ・繰り下げ支給は老後の生活を考える上で便利な制度です。定年後の就労や退職金の使い方とともにライフプランにお役立て下さい。
 

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